吉田優利の名勝負を振り返る!“メジャー優勝”で飾った1年8カ月ぶりの3勝目とは?
ゴルフの歴史には、その転換期となる数々の「名勝負」がある。それを知らずして現代のゴルフを語ることはできない。そんな「語り継がれるべき名勝負」をアーカイブしていく。
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メジャー優勝で飾った1年8カ月ぶりの3勝目
デビューの年2勝翌年は未勝利に
吉田優利は2000年4月、千葉県生まれ。00年度生まれの「プラチナ(ミレニアム)世代」である。ゴルフ歴は10歳から。17年「世界ジュニアゴルフ選手権」女子団体で2位に入る。翌18年はアマの2大タイトル「日本女子アマ」「日本ジュニア女子15歳〜17歳の部」を同一年に制覇。03年宮里藍以来という快挙だった。プロテストも翌19年に一発合格。19歳だった。
同じプラチナ世代の西村優菜、安田裕香、1つ年下の山下美夢有、西郷真央、笹生優花が同期合格している。合格直後には「目標は勝負強いプロになること。『粘り』が自分の強みだと思っています」と語った。アマのエリートがプロでどういう活躍を見せるか。吉田はその期待に応え、順調に歩み始めた。プロ初優勝はツアーデビューの20― 21年シーズン。21年7月末の『楽天スーパーレディス』だった。 最終日を1打差2位でスタート。
バックナインの5連続バーディなど8バーディ、2ボギー、6アンダーの66をマーク。2位に3打差の逆転優勝を飾った。「5連続バーディは人生初でした。時々、心拍数が上がっていることがわかったけど、パターを構えると冷静になった。パット練習をたくさん積んできたからでしょう。まだプロ2年目ですから初優勝は早かったと思いますけど、ふさわしいタイミングとも感じます」(吉田)2勝目もすぐにきた。
5週後の『ゴルフ5レディス プロゴルフトーナメント』。最終日は4打差7位タイのスタートで9バーディ、2ボギー。この日65で首位に並び、岡山絵里とのプレーオフを制した。勝因はパット。ショットがよくなかったぶんだけパットで何とかしようと考えた。そのことを「挑戦した3日間」と振り返った。「パットでどんなによいストロークをしても、ラインが合わなければ入らない。だからどんなグリーンでもラインを読む練習をしています」
また岡山にもこういった。「テレサ・ルーさんと岡山さんのスイングがあこがれです。体と腕がまったく緩まないで全身を使う。ずっとお二人を参考にしてきました。もちろん、これからも」プレー中は笑顔を絶やさない。勝っても負けても涙は見せず、インタビューの受け答えは理路整然。ライバルをリスペクトするスピリットも忘れない。完ぺきな19歳だった。
吉田は22年も順調に歩み続けるだろう、この予測は間違っていなかったが、意外な結果も生んでいた。間違っていなかったのはこの年のプレー・データだ。●トップ10入り19回 年間女王の山下( 21回)に次ぐ2位。●平均ストローク 70・3702(3位)●リカバリー率、サンドセーブ率、バウンスバック率、バーディ数の4部門で1位●メルセデスランキング、年間獲得賞金はともに6位すべてで前シーズンを上回った。
ひたむきな探求心と練習姿勢のたまものといっていい。それなのに優勝が欠けていた。 この年は2位が5回。そのほかにも3回は優勝争いに加わったが一度も勝てなかったのである。プレーオフでの敗退も2回あった。よくない流れだった。あと一歩で勝ちを逃し続けるのは「勝負弱い」と見られる。ライバルたちを楽にさせる印象につながるからだ。
踏みとどまって再び勝つか。下降線をたどって勝てなくなるか。プロツアーでは後者になるケースが多い。「勝負強くなる」を目指す吉田の正念場がきた。
久々の勝利はメジャー制覇
23年。吉田は危機を乗り切った。待望の3勝目を手にしたのだ。開幕から2カ月後の5月1週。シーズン最初のメジャー『ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ』を制したのだ。第1ラウンドはアンダーパー4人(出場118人)の難しい設定だった。吉田は4人の1人に入った。3バーディ、2ボギーの1アンダー。首位と1打差の2位タイだった。
第2ラウンドは5バーディ、2ボギー。通算4アンダーで単独首位に抜け出した。2位とは4打差。アンダーパーは1人になった。第3ラウンドは強風でさらに難しくなり、吉田も苦戦した。前半は3ボギーでバーディなし。後半も2ボギーが加わったが、最後の18番で初バーディがきた。この日は4オーバー。通算イーブンパーになったが、それでも単独トップにいた。2位とは2打差だった。
最終の第4ラウンドは雨に見舞われた。1番はバーディながら、その後は10番まで3ボギー。14番もボギーとしたが、12、15番のパー5でバーディを決めた。72ホール通算は1オーバーになったが、2位には3打差をつけて優勝したのである。強かった。悪コンディションでもバックナインのパー5でしっかりバーディを積み重ねた。またボギーのピンチをパーで切り抜ける粘りも見せた。プロ合格時の目標を実現して、メジャー・チャンピオンになったのである。
3勝目までの1年8か月。長いブランクをどう乗り越えたのか。ヒントを吉田の記録から探してみた。特徴の第1は前向きな心の姿勢である。22年、優勝を逃した試合後に、吉田はこんな言葉を発し続けていた。「すごくいいゴルフができたので、次に繋がると思っています」(KKT杯バンテリンレディス。2位タイ)「次戦は優勝争いが出来るように、しっかり調整したい。2打足りなかったところは、練習して次につなげたいです」(資生堂レディス。2位タイ)
「皆が伸ばす展開に上手く乗れなかったのは、すごく残念でした。ただ3アンダーでまとめられたのは、ポジティブに考えます」(NEC軽井沢72。2位タイ)「後半が難しいのは分かっていたし、自分が攻めた結果です。受け入れて、また次週がんばりたい」(ニトリレディス。7位タイ)敗れても自分を励ます言葉を連ねた。それをずっと言い続ける精神的な強さを吉田は持っている、といってもいい。
特徴の第2は意外な記録だった。表1は吉田が優勝を競った大会のラウンドごとの順位である。22年から23年『ワールドレディス』までの10試合を取り上げた。注目点は青色で色付けした最終ラウンドの前のラウンド=ラス前ラウンドの順位である。吉田がそこで首位に立ったのは『ワールドレディス』だけ。それまでの9試合は2位が最高、最多だ。これは21年の2勝も同じである。『ワールドレディス』まではトップで最終ラウンドをスタートしたことがなかったのだ。
前述のように、吉田の22年の平均スコアはツアー3位。それに対してラウンド別の平均スコアも第1〜最終ラウンドまでのすべてが3〜6位。とりたてて「第○ラウンドのスコアが悪い」という傾向はないのである。高い技術を持ち、安定的に発揮しているのに、優勝争いする試合のラス前ラウンドでトップに立てない。この不思議は偶然のものだろうか。その不思議を解消した『ワールドレディス』で、待望の3勝目がきたのだ。
ファイターかマイペースか
長年ゴルフトーナメントを見てきて「優勝争いのプレースタイルには2タイプある」と感じてきた。
●試合展開を見て、勝つために戦うファイタータイプ
●試合展開は意識せず、自分のプレーに専念するマイペースタイプ
自然なのはファイタータイプ。勝敗を競う基本スタイルだからだ。このタイプの優勝争いは接戦になりやすい。互いの動向を意識するとスコアも似通ってくるからだ。見ていて面白く、熱戦にもなりやすい。だが、これだと思うようにプレーできない場合もある。相手のスコアを気にしすぎて自分のプレーに集中できなくなるタイプだ。
『絶対○アンダーにしなければ!』という過剰なプレッシャーを自分にかけてしまうのである。それを防ぐのがマイペースタイプのスタイルだ。優勝争いの渦中でも「リーダーボードは見ない」というような戦い方が編み出された。外部の情報をシャットアウトして、淡々とプレーすることで最善のスコアを出そうとする方法である。
両者に優劣はない。年齢とともに戦い方が変わったり、時々で両方を使い分ける人もいる。それは「こっちなら必ず勝てるという保証がない」証しといえよう。だから「1つのスタイルでずっと結果が出ないなら他の方法を試す価値がある」のだ。ファイタータイプは、マラソンならトップ集団の中でレースを進め、勝負どころでスパートする勝負師タイプにも似ている。
ラス前ラウンドまではトップ集団につけ、最終ラウンドにスパートする。吉田の最初の2勝はそんな勝ち方に見える。だが戦歴を積むほどに勝てなくなった。様々な経験と増えた情報量が精神状態を変えた可能性がある。そこでマイペースタイプの戦い方を採り入れ、自分のプレーに集中したら、ラス前でトップに立ち、最終ラウンドも大差で首位を守れた。
23年の『ワールドレディス』は、そういう吉田が制した試合に見えた。22年9月3週の『東海クラシック』。最終ラウンドで一時首位に立った吉田は、その後のボギーが響いて1打差2位に終わった。いつもは涙を見せない吉田が大粒の涙を流してこういったという。「この試合で何かひとつ進化できるように、何かを取り入れるのもありかなぁ」自分を変えてみる?という気持ちになったのかもしれない。
そして『ワールドレディス』のラス前ラウンド後。首位を守った吉田は、最終ラウンドを前にこういった。「結果やスコアはとても大事ですけど、どういうプレーをするかを大切にしている。私のゴルフをいいものにできるか……です」この言葉の「スコア」を「収入」に、「プレー」を「生き方」に、「ゴルフ」を「人生」に置き換えれば、人生の大切な指針になる気がする。
それでも「決めつけ」は不要である。マイペースタイプのプレーが息苦しくなったら、ファイタータイプの要素をいくつか取り込んでもいい。自分のゴルフをよいものにするには、枠を固めずに自由な発想で新しいことに取り組む。そんな姿勢が大切だと思えるのも、人生と同じである。自らのひたむきさに自信があれば、それでも活躍が続けられるはずだ。
いかがでしたか? 吉田プロの活躍に注目していきましょう!
文=角田陽一 写真=ゲーリー小林
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