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「全身が震えた」大きな一歩を踏み出した、小柄な比嘉一貴の“メジャー初V”

ゴルフの歴史には、その転換期となる数々の「名勝負」がある。それを知らずして現代のゴルフを語ることはできない。そんな「語り継がれるべき名勝負」をアーカイブしていく。

今回は、比嘉一貴プロの2022年BMW日本ゴルフツアー選手権森ビルカップの激戦にてついて紹介します。

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ツアー選手権激戦の幕開け

比嘉一貴@2022年BMW日本ゴルフツアー選手権森ビルカップ

『日本ゴルフツアー選手権』は2000年から始まった。男子ツアーのメジャー大会の一つで、今年からBMWがタイトルスポンサーになった。優勝者にはドイツで行われるDPワールドツアー『BMWインターナショナルオープン』(6月23〜26日)の出場権が与えられる。また03年から大会を支えてきた森ビル株式会社は特別協賛を継続。『BMW日本ゴルフツアー選手権森ビルカップ』(以下『ツアー選手権』と表記)になった。

今年は大詰めまで優勝の行方が分からない激戦。それを制したのは比嘉一貴(27歳)だった。第1ラウンドは6月2日。単独首位には6アンダーのJ・チョイ(38歳。米国)が立った。1打差2位は学生プロの平田憲聖(21歳)。さらに1打差の3位タイには坂本雄介(24歳)、木村太一(23歳)、朴銀信(32歳。韓国)が並んだ。

比嘉は2アンダーの8位タイだった。

翌日の第2ラウンドは悪天候で中断。全部のプレーが終わったのは次の日の午前9時。トップは通算8アンダーの木村と大会初出場でこの日7アンダーの岩﨑亜久竜(24歳)だった。比嘉はこの日パープレーで18位タイに下げた。第3ラウンドはその1時間40分後、10時40分から始まった。首位に抜け出したのは星野陸也(26歳)だ。1イーグル、5バーディ、1ボギーでこの日6アンダー。通算11アンダーで2打差の単独トップに立った。

星野は大学を中退してプロ入りし、18年『フジサンケイクラシック』に20歳で初優勝。その後も毎年優勝を重ねて通算5勝。昨年は東京五輪にも出場(38位タイ)した。自宅はコースから車で10分ほど。まさしく地元の選手である。

186センチの長身。300ヤード超のロングショット(20-21年は平均301・21ヤード。ツアー3位)で平均ストロークもツアー2位(20-21年。70・240)。飛ばせてうまい大本命が躍進したのだ。2位は岩崎。そして3打差の単独3位に上がったのが比嘉だった。

比嘉は95年4月、沖縄県生まれ。東北福祉大では『日本オープン』ローアマなどを獲得。『ユニバーシアード』など海外でも大活躍した。プロ入りは17年。ツアー初Vは19年『KBCオーガスタ』。26アンダーの大会新記録だった。21年『セガサミー』で2勝目、今年4月の『関西オープン』で3勝目を挙げた。身長158センチはツアー最小クラスの小柄だが、体重70キロとマッチョだ。それにここ一番の勝負強さがある。第3ラウンドでも後半に12、13、15、16番と4バーディを奪取。バックナインの31(4アンダー)はこの日のベストスコアで、通算8アンダーまで伸ばし、最終日最終組に入ったのである。

6月5日、日曜日。前半終了時に星野は1打伸ばして通算12アンダー。単独首位を守った。岩崎は2打伸ばして11アンダー。比嘉も2打伸ばして10アンダー。2打差の3位タイだ。もう一人の3位タイは最終組の2組前の大槻智春だ。90年1月生まれの32歳である。6打差からスタートし、6バーディ、1ボギーと猛追してきたのである。

最終日猛追を見せて一時はトップに立った大槻

大槻はこれまでツアー1勝。19年『関西オープン』で、そのときも最終日65で首位に並び、プレーオフで勝った。その相手が星野だった。大槻は20-21シーズンは優勝できなかったが上位入賞が多く、総合力を表すメルセデス・トータルポイントでは1位を獲得。実力派の参入でV争いは混とんとしてきた。

後半の10番。星野と比嘉がボギーを打った。同じころ、大槻は12番パー4で7つ目のバーディを獲った。続く13番パー3も1メートル半のパットを沈め、単独トップへ躍進した。

その結果、比嘉はV争いから振り落とされた。首位の大槻とは3打差。星野、岩崎とは2打差。1人でもスコアを伸ばしたら、比嘉が追いつくのは困難だからだ。最終組の3人は10番から14番までバーディなし。岩崎は13番のボギーで1打落とした。

むかえた15番ホール。615ヤードのパー5。この日はティーグラウンドが前に出され、580ヤードになっていた。フェアウェイの下り傾斜を転がしていくと2オンの可能性が高まる。運営サイドからの『2オンして劇的イーグルを獲ってください』というメッセージが伝わる設定だった。

障害は左右の林である。高い樹木の壁が立ちはだかっている。右の林にはOBがある。左の林に打ち込むと斜面を落ちる。林の中で止まれば2打目は出すだけを強いられる。前日までは林を避けて1打目をレイアップする選手もいたが、この日の最終組は3人ともドライバーだ。先行する首位の大槻はここでもバーディを獲った。通算13アンダー。比嘉との差は4打にまで広がった。

一度沈んだが再び這い上がる

15番の1打目。オナーの星野の打球は右の林に飛んでOBになった。打ち直した3打目はフェアウェイを捉えたが、4打目のアイアンショットはまた右の林。結局星野はトリプルボギー。V争いから脱落した。

2番手の比嘉の打球は林のピークより低く飛んでいった。軽いドローでフェアウェイを勢いよく転がって、2オン可能な位置で止まった。

岩崎は、打った直後に左の林から打球音が響いた。2打目で林から出して3打目はフェアウェイ。116ヤードからの4打目をウエッジで2メートルにつけ、1パットでパーはセーブした。

比嘉の2打目はピンまで278ヤード。軽い打ち下ろしのフォローだ。ウッドの打球はグリーン中央方向に飛び、この日二人目の2オン成功者になった。

3打目のイーグルパットは下りの8メートルほど。軽いフックラインを転がったボールは、ど真ん中からカップに入った。イーグルで通算11アンダー。一挙に二ケタに乗せ、単独2位に浮上した。

ほぼ同時に、別の追い風も吹いた。17番パー4をプレー中の大槻が2打目を池に落としたのだ。ダボになり、通算11アンダーに後退した。比嘉は4打差を一挙に縮めて首位に並んだのだ。めったに見られない、劇的な展開だった。

この後、岩崎は16番パー3でバーディを獲り11アンダー。大槻、比嘉と首位タイに並んだ。そしてそのまま最終組は18番ホールに入った。

467ヤードのパー4。右サイドの大木の陰に隠れるように、最終日はグリーン右側にピンが立つ。大木を避けて左に2打目を運ぶ選手が多い中、比嘉はピンを攻めた。

ドライバーショットはフェアウェイ。3人の中で一番飛んでいた。そこからの2打目を5ヤードの幅しかないピン右側に落とし、右奥に止めた。2メートル半のバーディチャンスである。岩崎もピンを狙ったが、右バンカーに入れて3オン。その後のパーパットが外れ、ボギーとした。

入れれば勝ちのパットを迎えた比嘉は「全身が震えた」と仕切り直す。構え直すとそのパットを沈めた。バーディでの鮮やかな逆転優勝だった。通算4勝目。メジャータイトルは初である。

「うれしい、の一言です。最後は震えましたが、いいストロークができた。首位に並んだことを知ったのは17番の2打目を打った後。そこからは(優勝を)意識しましたが、18番は気合を入れてプレーしました」そのプレーぶりは圧巻で、メジャーの勝者にふさわしいフィニッシング・バーディだった。

勝負を分けたパー5の出来

この日、比嘉はイーグルを2つ獲っている。1つ目は2番パー5。アプローチがピンに強く当たって入った。「入らなければグリーンを出ていたかも」(比嘉)という1打だった。もう一つは既述の15番。そして6番パー5もバーディだ。「3つのパー5で5ストローク。ツイてましたね」(比嘉)謙遜だろう。ツキだけではなかったはずだ。

大会の4ラウンドでプレーするパー5は12ホール(3ホール×4)。比嘉はイーグル3、バーディ6、ボギー1、パーは2。パー5で11アンダーを貯金していたのだ(別表1参照)。優勝スコアは12アンダーだから、パー4とパー3の60ホール(15ホール×4ラウンド)は1アンダーだ。

「プロのパー5はチャンスホール」という。3打目で短い距離からピンを狙えるパー5はバーディチャンスを得やすい。そこでどれだけスコアを伸ばすかが賞金額を左右する。その典型といえるプレーぶりだったのである。

特に15番はバーディ、バーディ、バーディ、イーグル。完璧に攻略している。その原動力と思えるのは低い弾道のドライバーショットである。フェアウェイか浅いラフに運び、林には絶対に入れない。それがバーディルートの鉄則で、最終日のイーグルもその攻め方の延長線上で生まれたものだ。

意外にも比嘉は飛ばし屋ではない。20-21年シーズンのドライビング・ディスタンスは286・82ヤードで42位。それでもパー5で稼げるのは、パー5は攻め方の選択肢が非常に多いからだ。正確性や状況判断力などもアドバンテージになる。飛距離だけには頼っていないのだ。最終日の15番もそうだった。フェアウェイをキープしたことで2オンに成功し、イーグルパットが打てた。それが入ったのは技術の巧みさゆえだ。特に素晴らしかったのはパット。ここも、そして18番もど真ん中からカップインさせていた。

またパー5はトップ10人の順位にも関係していた(別表2)。

最終日のパー5の3ホールでアンダーパーを記録したのは10人中7人。そのうちの6人は前日より順位を上げた。逆に3ホールでオーバーパーを叩いた3人中2人は順位を下げた。たった3ホールなのだが、そこでのスコアの出来は、ショットの調子やパットの状態を反映しているようだ。

身長158センチ。186センチの星野より28センチも背が低い比嘉のメジャー獲得は快挙である。さらには「全英オープンをテレビで見て、ゴルフを志した。世界で戦いたい」という姿勢もあっぱれだ。この優勝で、その全英オープンの出場権も獲得した。小さな選手が、世界へ挑む第1歩を踏み出したのだ。

また上位を争った選手たちも個性的で、テレビ観戦は楽しかった。地上波で土日に生中継してくれたNHKの功績は大である。

文=角田陽一
写真=ゲーリー小林

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