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吉田優利は被害者?スロープレーへの厳しすぎる罰と現状
近ごろの米女子ツアーで目立つスロープレー。吉田優利も裁定されて罰金を課せられたが、なにかと腑に落ちない点が多く、その経緯と現状に突撃!
吉田優利は被害者?スロープレーへの厳しすぎる罰と現状
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今年8月の「ポートランドクラシック」2日目、ホールアウトした吉田優利がスコアリングエリアを去ったのは、最終ホールを終えてから30分以上も過ぎたあとだった。
吉田を待っていたファンの人たちの話によると、少し涙目だったともいう。それでもしっかりとファンサービスを行ない、夜には会食にも加わったようだが、一体、何があったのだろうか?取材の結果、吉田はスロープレーのペナルティ(罰金)を受けたことがわかったが、それに伴い複雑に絡み合う現状をお伝えしたい。
吉田は予選落ち濃厚というスコアで第2ラウンドをホールアウト。だが、スコアを提出したあと、長時間ルール委員と話し合いを行なったため、スコア提出場を去るのが遅くなったのだ。話し合いの内容は、吉田がラウンド中にスロープレーの規定に抵触したため、罰金を言い渡されたことに対する抗議だった。
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その日、吉田と同組になったナタリー・ガルビスは、初日の序盤からかなりスローペースでプレーしていたのがロープ外からもわかった。スローペースだっただけでなく、ガルビスは同組の選手がアドレスに入っているにもかかわらずティーイングエリア内で動いたりしてプレーの邪魔になるなど、あまり褒められたマナーではなかった。
吉田も何度かアドレスを解くこともあったなか、ホールアウト後にルール委員から「吉田が(規定の40秒を超えた)43秒と46秒かかった場面が2度あった」ということで罰金を課されたのだ。
邪魔された場合には規定時間を猶予されるが「ホールアウト後だと証拠がない」とのことで、中継局のクルーの協力で映像を確認したりもしたが、邪魔された場面は映像には残っておらず、最終的に吉田は納得のいかないままルール委員の決定に従ったのだ。
この吉田のラウンドは、私もかなりのホールを見ていたが、ガルビスのスロープレーとマナー違反は目に余るものがあった。しかし、ガルビスではなく吉田がスロープレーをとら吉れるとは予想外。そのため、試合から数週間後にはなったが、ルール委員にも確認取材を行なった。ベテランのルール委員スー・ウィッター氏はいう。
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「男子ツアーでもそうですが、スロープレー改善のためにかなり頻繁に厳しく取り締まっています。ですが、10年から15年前と比較しても実際にペースは改善されたとはいえない状況です。スロープレーの理由ははっきりとはいえませんが、女子に関しては、プレーのルーティンを忠実に守りたい選手が多いのかもしれません。(ホールから遠くても)用意できた選手から打つルールも制定されていますが、スロープレーは無くならないので、試合中、私たちルール委員はルールの裁定よりスロープレーの計測に追われるほうが多いとも感じています」
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実際、男女両ツアーを取材していると、ルール委員は、女子ツアーではつねにどこかの組の計測を行なっている。一方、男子ツアーでは待機している時間のほうが長いと感じる。吉田がスロープレーをとられたのも、ルール委員が試合中はかなり多忙なため、場合によってはルールを杓子定規に適用するしかなく、個々の特殊なケースを考慮に入れずらいため、選手は不満を感じながらも裁定に従うしかない、という状況が多発していると想像できる。
ちなみにSNSなどで「米ツアーにおけるアジア人いじめだ」などという意見も見られたが、これはまったく不正確と断言しておきたい。吉田の翌日にはアメリカ人選手もスロープレーをとられ、かなり強く抗議したが聞き入れられなかった現場を目撃しているし、ほかの試合でも同様にアメリカ人選手が違反をとられて泣いている場面を見ている。
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ルール委員も「違反者の国籍リストを見ても、押し並べてどの国の選手も罰打・罰金の対象になっている。リストを見せてもいい」と主張。現場を取材していても、差別的な裁定は明確に感じることはない。もし、そんなことが今のアメリカで本当にあったら、訴訟になって多額の賠償金を支払わされる可能性さえあるだろう。
最終的には、女子ツアー全体のプレーペースがもう少し改善されれば、吉田のような納得のいかない裁定も少なくなるはずだが、みなさんはどう思われるだろうか?
取材・写真=田辺安啓
TEXT & PHOTO Yasuhiro JJ TANABE