佐藤心結、初優勝について語る「勝負は後半になるってわかっていた」

ツアーで活躍しているプロたちは誰もが自分のゴルフをよりよいものにしていくためにさまざまなことを考え、走り続けている。どんなことを考え、どのようにゴルフと向き合っているのか。インタビューをとおして、その姿を探っていく。

2022年は川﨑春花が、その翌年は櫻井心那が、そして今季は竹田麗央がツアーを大いに盛り上げた。この3人は「ダイヤモンド世代」と呼ばれる2003年度生まれの選手だ。ほかにもメジャーを制覇した神谷そら、優勝回数は1回だが今季もメルセデスランキング上位で活躍する尾関彩美悠など、今やツアーを代表する一大勢力といっていいだろう。

今月登場する佐藤心結もそのひとり。同期が次々と優勝していくのを見送り続け、今季開幕から不振にあえいでいた彼女が、アマチュアのときに渋野日向子とプレーオフで戦った「スタンレーレディスホンダ」でついに初優勝を飾った。まずはその最終日を改めて振り返ってもらい、そこにたどり着くまでの平坦ではない道のりを話してもらった。

佐藤心結「勝負は後半になるってわかっていた」

調子が上がらず今シーズンはもう厳しいかな、と覚悟しました」

──優勝した試合の最終日は、2番ホールでボギーが先行しましたね。

佐藤:セカンドが大きいミスになってしまい、パットもカップに蹴られて3パット。「簡単にボギーを打ってしまった」と思いました。前半はここから「耐えるゴルフ」に。でも、絶対後半に流れがくると思っていたし、バックナインが大事になるのはわかっていたので、15から18番の勝負に力をためておこうってキャディさんとずっと話していました。

──冷静でしたね。

佐藤:前半を耐えられたので、また1から作っていこうってハーフで気持ちを切り替えることができました。以前の自分だったら焦ってリズムやテンポが速くなり、よくない方向にいっていたでしょう。でも、あの日はよい意味で「真剣になりすぎない」というか、楽しみながらリラックスした状態でプレーしようって決めていました。

──リラックスしていましたよね。さて、初優勝がかかるバックナインに入ります。

佐藤:トップとは3打差開いていましたが、11番で初バーディがきました。そのあと14番、「カップに蹴られるかな?」というくらい強いタッチで打ったら、ど真んなかからカップイン。「私、今日運があるな」と思いました。

──いい音がしましたよね。そこから17番まで4連続バーディ。

佐藤: 17番は10メートル以上ありましたし、タッチだけ合わせて2パット狙いでしたが、まさか1発で入るとは……。

──神がかっていました。2位に2打差をつけて最終ホールへ。

佐藤:最後もまだまだ隙は見せられないと、パー以上で上がることだけを考えていました。

──そして歓喜の瞬間、両手を高くあげたときの気持ちは?

佐藤:優勝したという実感はすぐにはわきませんでした。肩の荷が下りたような「ホッとした気持ち」が1番大きかったですね。今季前半が本当に苦しかったですから。

「なにもかもうまくいかないそんな日が続いた」

「初優勝で今まで支えてくれた人たちに少しは恩返しができたかな」

──苦しかった前半戦のことを聞いてもいいですか?

佐藤:スタートからしっかり成績を残そうという気持ちで今シーズンに臨んだのですが、気持ちとは裏腹に開幕から予選落ちが続きました。うまくいかないまま、自信も日に日になくなっていき、よくなる兆しも見えずにあっという間に春が終わってしまいました。

──何が悪かったのでしょうか?

佐藤:あのころはドライバーの飛距離も落ちて、アイアンのキレもなく、FWキープ率もパーオン率もずっと低くて、とにかくショットとパットが日替わりで悪くなる。また初日はよかったのに2日目は別人のように悪くなる。とにかく何もかも噛み合わないのでゴルフがまとまらない。今思えばよかったものがひとつもない状態でしたね。6月くらいにさすがに「今シーズンは、ちょっともう厳しいかもしれない」と覚悟しました。

──かなり追い詰められていたのですね。

佐藤:キャディさんは「こういう流れの年もあるから、受け入れましょう」って。

──ただ、8月あたりから復調の兆しがみえてきましたね。ゴルフ5レディスの初日、スタート前の練習で「ひらめいた」ことがあるそうですね?

佐藤:ゴルフ5の少し前に米山みどりさんから「足を使って打ちたいなら、素振りから同じようにしたほうがいい」とアドバイスをいただいて、これまで足を使って打っていなかったことに気づいたんです。「足を使って打つ」を意識して、沈み込むような感じで打ってみたら、これはイケるかなと。

──それで戦えると?

佐藤:8月のCATレディスから上位争いができるようになってきてはいましたが、このゴルフ5で自信がつきました。前半はすべてが噛み合わなかったのに、パズルのピースがひとつハマった途端に、いろいろなことがよいほうに向かって行くようになりました。

──このあたりから優勝しそうな雰囲気が出てきましたね。

佐藤:そのころ、9月の日本女子オープンで、麗央(優勝した竹田麗央)の組について観戦してみたんです。

──なぜ見に行こうと?

佐藤:単純に「見てみたい」という気持ちからでした。何か得るものがあるかなって。麗央は「簡単にボギーを打たず、ピンチをしっかりパーで耐える」ゴルフをしていました。その「パーを拾える力」は今の自分にないなって。今まで人と自分を比べたことなんてなかったのですが。

──間違いなく得るものがあったのでしょう。その翌週に初優勝ですからね。その竹田選手は同い年の同期でしたね。同期の選手とはどんな存在ですか?

佐藤:試合中はよきライバルであり、お互いを全部わかっているので、悩んだり苦しいときは相談相手にもなってくれる。こんな幸せな関係、本当に宝ものです。

──そういえば竹田選手はTOTOジャパンクラシック優勝で、来季は米ツアーに参戦するようですが、佐藤選手は海外への挑戦を考えていますか?

佐藤:今は漠然と2年後くらいにと思っていますが、もっと自信をつけてから行きたいですね。国内で実績を積んで、引き出しをいっぱいにしてからの挑戦になっていくと思います。

──ゴルフを続けていくのに、今どんなことがモチベーションになっていますか?

佐藤:苦しいときにずっと支えてくださったスポンサーの方や、いつも応援してくださっている方々に結果で恩返ししたいというのが1番のモチベーションになっています。今季の初優勝で少し恩返しができたかなと。

話を聞いた翌週に試合会場へ足を運ぶと、佐藤心結はもうひとりの「よきライバルであり、宝もの」の同期・川﨑春花とラウンドしていた。セカンド地点まで話をしながら歩く2人のうしろ姿は、今までとは少し違って見えた。2年前、ルーキーイヤーで2勝をあげた川﨑は、24年もすでに3勝して、その視線を上に向けはじめている。

数週間前にやっと「お待たせ、春花!」と川﨑選手の背中に追いついた佐藤心結。この先もそんなシーンが何度か見られるのだろう。いや、彼女の心の曇り空が晴れ渡った今、逆に「春花、先行くね!」となるのかもしれない。佐藤心結主演の物語が、ようやくはじまった。

いかがでしたか? 佐藤選手のこれからの活躍が楽しみですね!

佐藤心結
●さとう・みゆ/2003年生まれ、神奈川県出身。2021年プロテスト合格。翌2022年マスターズGCレディースで、2位タイに入るなどの活躍でシード権を獲得。24年は開幕から続いた不調から一転し、10月のスタンレーレディスホンダで初優勝を飾った。ニトリ所属。

文=ひよこきんぎょ 
写真=小林 司 
撮影トーナメント=NEC軽井沢72

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