大里桃子、“3年ぶりの優勝”の秘話とは?きっかけはフェードに変えたこと
ツアーで活躍しているプロたちは誰もが自分のゴルフをよりよいものにしていくためにさまざまなことを考え、走り続けている。どんなことを考え、どのようにゴルフと向き合っているのか。インタビューをとおして、その姿を探っていく。
24年シーズンはいわゆる「黄金世代」の選手の初優勝、復活優勝が印象深かった。6月に3年ぶりの優勝を飾った大里桃子もそのひとり。11月下旬、ツアーを終えたばかりの彼女に24年シーズンを振り返ってもらった。
「フェードにしてみたら?」
──24年シーズンが終了しました。どんな1年でしたか?
大里:開幕前に「シード復帰」と「ゴルフを楽しむこと」を目標にしました。昨年は調子がよくなかったので、正直、ゴルフを楽しめていなかったかもしれません。
──昨年(23年)の不調は、何が原因でしたか?
大里:ショットですね。序盤から1打足らずで予選落ちなど、なかなかペースをつかめずにいたら、だんだん持ち味のアイアンも光らなくなっていき、ティーショットもフェアウェイを外すようになりました。曲がる幅がどんどん広がるにつれて「今までどうやって打っていたっけ?」みたいな状態に。ドローを打ちたいのに、うまく打てないし、右プッシュが怖くて左へいく……。とにかく全部が悪かったです。
──そんな不調のどん底から、復活の手がかりとなったのは?
大里:琴音さん(堀琴音)と一緒に回っているときに、ショットについて相談してみたんです。すると「フェードにしてみれば?」って。私はドローボールにこだわりをもっていましたが、琴音さんもフェードに変えて復活されていたので、なるほどなと。23年8月のニトリレディスでのことでした。なんとなくその言葉が頭に残っていて、その直後の女子オープン予選会で、スコアもよくなかった終盤、目の前にいい感じの右ドッグレッグが現れてくれて……。
──フェードボールを打て、といわんばかりの?
大里:そうです(笑)。もう予選通過も厳しいからちょっと打ってみようか、くらいの気持ちでやってみると、とてもいいスイングができたんです。久しぶりにフィニッシュまでしっかり決まって。
──手応えがあったのですね。
大里:早速、翌週のゴルフ5レディスで、フェードを本格的にはじめました。もう23年はQTに狙いを絞って、そこまでにある程度スイングを仕上げようかなと。
──狙いどおりQTは5位で、24年シーズン前半戦の出場権を得ました。24年の開幕までに、ほかに強化した点はありますか?
大里:理学療法士の方に体の使い方を教えていただいたら、スイングのブレが少なくなりました。これを続けていけばシーズンを通して戦えると感触はよかったです。
──上々の仕上がりでツアーにのぞめたようですね。そのときはすでに優勝を狙っていましたか?
大里:シード落ちしたことで失うものもなく、よい意味で開き直れていました。メンタル的にも成長を感じていたので、ショットがもっとよくなれば、優勝争いにからんでいけるかな、とは思っていました。
──6月の「宮里藍サントリーレディス」の優勝を振り返ってください。キャディの島中さんと笑顔で回っているのが印象的でした。
大里:ひと月前にサントリーだけキャディが決まっていなかったんです。「大里、ここ空いてます」とアピールはしていたんですけど、そこがたまたま島中さんも空いていてご連絡いただき、今季初タッグでした。本当に話がおもしろい方なので、練習ラウンドも本戦中もリラックスして回れました。
──どんな話をしていたのですか?
大里:練習ラウンド中は、比菜ちゃん(新垣比菜)が優勝したときに、キャディをしていた比菜ちゃんのお兄さんが男泣きした話をしていたら、島中さんも「俺も優勝したら号泣しちゃおうかな!」とか(笑)
──本当にそのまま優勝しましたね(笑)。どこで勝ったと思いましたか?
大里:スコアボードをずっと見ていなかったので、最後18番のセカンドがピンそばについたところで、次を入れれば勝てるかなと。
──勝った瞬間、ガッツポーズは出ませんでした。
大里:そうですね。ホッとした気持ちが大きかったです。じつはそれまで試合には必ず帯同してくれていた父が、ひと月前に心筋梗塞で倒れてしまったんです。大事には至らなかったのですが、しばらく父のいない試合が続いていた、そんな最中の優勝だったんです。
──そんなことがあったのですね。優勝はお父様にとって何よりの薬だったのでは?
大里:優勝の報告をすると「これで今シーズンは安心して試合が見られるよ。おかげで心臓にも悪くないし、親孝行してくれた」とよろこんでくれましたが「俺がいなくても勝てるんだな」って、少しスネちゃったみたいで(笑)
──お父様のその気持ちよくわかります(笑)。そのあとも安定したプレーで予選落ちもほとんどなかったですね。
大里:とくに優勝後は、自分を客観視できるようになった気がします。調子が落ちてもこれをしておけば大丈夫、というチェックポイントがわかっていたので、大きく崩れることがなくなりました。23年のことを考えると、24年は間違いなく収穫の年でしたね。
──収穫できたものをもって、新しいシーズンはどうしますか?
大里:ピンを真っすぐに狙ってバーディを獲る、という最近のゴルフに対応するには、アプローチをもっと強化したいですね。そうすればさらに上で戦えるはずだと思っています。24年の自分を超えていきたいです。
──大里選手がゴルフを続けていくのに、今、どんなことがモチベーションになっていますか?
大里:不調のときも応援してくれる家族や、支えてくれるスポンサー様、サポーターのみなさんの存在がやはり大きいですね。みなさんによろこんでもらえるようなゴルフをしたいっていつも思ってプレーしています。23年、あまり届けられなかった笑顔を、24年はたくさん届けられたかなって。開幕前に「今季はゴルフを楽しもう」と決めて、笑って終われました。いい1年だったと思います。
23年の女子オープン予選会、あのとき右ドッグレッグのホールがこなかったら、フェードは打っていなかったかもしれない。サントリーレディスの優勝も、キャディが島中氏じゃなかったら、またお父様の件がなかったら、結果は違うものになっていたかもしれない。
絶妙なタイミングで集まったこれらの要素が、彼女の3年ぶりの優勝の後押しをしたように思う。20歳で初優勝した大里桃子も、気がつけば27歳を迎えようとしている。「次のシーズンは、より大きい収穫を」という地に足のついた彼女の言葉に、新しいシーズンの開幕が早くも待ち遠しい気持ちになった。
いかがでしたか? 大里選手の活躍に期待しましょう!
大里桃子
●おおさと・ももこ/1998年生まれ、熊本県出身。「黄金世代」のひとりで、デビューイヤーに「CAT Ladies」で初優勝。2021年「ほけんの窓口レディース」で2勝目をあげるも、昨季は不調からシード落ち。持ち球をドローからフェードに変えて臨んだ24年6月「宮里藍サントリーレディス」で3年ぶりの復活優勝を飾った。伊藤園所属。
文=ひよこきんぎょ
写真=小林 司
撮影トーナメント=NEC軽井沢72