“飛ばし”に重要なこととは?稲見萌寧のコーチ陣がインナーマッスルの使い方を解説
2020-21年の賞金女王・稲見萌寧が昨年「TOTOジャパンクラシック」で復活優勝を果たした背景には、柳橋章徳を中心とする「チーム ブレイクスルー」のコーチ陣の支えがあった。
パワーやスピードの限界を突破(ブレイクスルー)するには、何を考え、何を目指してどんな指導を行っているのか。今月は“エピソード0”として、その斬新なメソッドの概要を紹介する。
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インナーマッスルをどう扱うかを知る
――みなさんのチーム名の名前の由来はなんですか?
柳橋:限界の壁を突き破って、さらに高いパフォーマンスを目指すために「チーム ブレイクスルー」と名づけました。
安岡:それにはスイングだけでなくフィジカル面での知見も必要なので、トレーナーの山縣さんにも参加してもらったんです。
山縣:僕はゴルフが専門ではありませんが、さまざまなスポーツ選手を見てきたので、それがゴルフにも共通する部分がある。3人で力を合わせれば今までゴルフ界になかった新しい取り組みができるのではないかとワクワクしています。
――たとえば、どんなところが新しいのでしょう?
安岡:山縣さんは具体的なトレーニング方法以上に「考え方」が斬新です。ともすると筋力アップ自体が目的化してしまいがちな「筋トレ」ではなく、ちゃんと動きのパフォーマンス向上につながる「トレーニング」として認識することを重視しているんです。
――「筋トレ」と「トレーニング」には違いがある?
山縣:実質的にはインナーマッスルをどう使うかがカギです。インナーマッスルがなければ、大きなアウターマッスルの力を引き出すことはできない。しかしそれには、インナーマッスルを「どう扱うか」を意識することがとても大事なんです。
――難しいですね。
山縣:では、このゴムを引っぱる動きを例に説明しましょう。このゴムバンドが自分の筋肉だと思ってください。それを僕が引っぱって、反対側の安岡さんに力を作用させようとします。動かされまいと耐えている安岡さんを最大の力で引っぱるには、このゴムにどのくらいの力をかけるとどのくらい伸びてどこで伸び切るかを僕が理解していないといけないんです。
――なるほど。それがわかっていないと、力を出しても安岡さん側にうまく伝わらない。
山縣:この感覚があると、腕でグイグイと引っぱるというよりも、体を締めてテンションをかけ体全体で引っぱる感じになる。この「締める」のがインナーマッスルの役割で、パフォーマンスを発揮する大前提なんです。インナーマッスルが弱いとどんなに強いゴムを使っても、つまり筋トレしてパワーアップしても、それを生かすことができません。
安岡:これは、クラブを使ってボールを飛ばすゴルフという競技ではとくに重要なんです。
本当の“パワーの出し方”ってこういうこと!
「ゴム=筋肉」がどのくらい伸び、どこで伸び切るか。「クラブ=安岡」がどのくらいの重さかなどがイメージできていれば、「プレーヤー=山縣」はインナーマッスルを締めて体全体で引っぱることで最大のパフォーマンスを発揮できる
筋肉は伸びるのでタオルとは違う
伸縮性のないタオルなどを介して引っぱる場合は、どのくらい伸びるかを考慮する必要がないため最初から最大パワーで引っぱってもいいが、筋肉は伸び縮みするので、これと同じイメージでは最大効率は出せない
ゴムのテンションをイメージできていない
ゴム=筋肉がどのくらいの力をかけることでどこまで伸び、どこでテンションがかかるかをイメージできていないと、漫然と引っぱることになり、対象(安岡)に効率よく力を伝えることができない
体の動きが悪いとクラブに力が伝わらない
インナーマッスルが使えないままアウターマッスルだけで引っぱろうとすると、ゴムに十分な負荷がかけられない(上)。またインナーマッスルが弱いとゴムのテンションや対象の重さに負けてしまう(下)
「強く叩けそう」な切り返しを作る
――やりたいことのイメージはわかりましたが、ゴルフにおいては具体的にどんな場面でどう生きるのでしょうか?
柳橋:もっとも影響が大きいのが切り返しのポジションでしょう。この感覚が研ぎ澄まされれば、飛ばせるいい切り返しが作れると思います。
――なぜ切り返しが重要なんですか?
柳橋:インパクトで大きなパワーを発揮するには、それより手前の切り返しのポジションで「ボールを強く叩ける位置」に体がいないといけない。ある意味ではゴルフでいちばん難しいポジションでもあります。
――叩ける位置とは?
山縣:人それぞれ異なりますが、インパクトバッグなどを叩く際に「これなら強く叩けそう」と感じられる準備の位置があります。パンチするときなら握った拳を振りかぶった位置で、ゴルフでいうとそれが切り返しのポジションになります。うまくバランスがとれて、インナーマッスルでテンションがかかっていることが大事です。
柳橋:バランスというと、片足で立って安定するようなイメージをもつかもしれませんが、ゴルフの切り返しで大事なのは、クラブと体、上半身と下半身のエネルギーが拮抗している「引っぱり合った」バランスなんです。
――なるほど。さっきのゴムを引っぱる動きに似ています。
柳橋:このとき自分の筋力(=ゴムの強さ)やクラブの重さ(=安岡さんの重さ)などを体が理解して適切な負荷をかけ、バランスがとれていることが、ここからインパクトに向けて最大のパワーを発揮して飛ばすための必須条件なんです。
山縣:じつは、このバランスをとるのがインナーマッスルの仕事。どんなにアウターマッスルの筋力アップをしても、それに応じたインナーがあって、さらにそれをどう使うかのイメージがなければダメなんです。
柳橋:これを裏返せば、アマチュアにとっては筋力アップ以前に、このテンションのかけ方、バランスをとる感覚などが磨かれれば簡単に限界突破できるということでもあります。
――ボールを強く叩けそうな、バランスのとれた切り返しがカギということですね。
ゴルフの「バランス」はコレではない!
「バランス」という言葉からは、上の片足立ちのような状態をイメージしがちだが、ゴルフの切り返しで求められる「バランス」は引っぱり合いによってエネルギーが拮抗している状態だ
クラブと体が引っぱり合っている
バランスがとれたパワーの出せる切り返しは、上のような状態。「クラブ=山縣」の重さやモーメントと体の動き・パワーが拮抗しているので効率よく強く大きな力を発揮でき、自然と軌道もよくなる
「クラブ=山縣」の重さに負ければ振り遅れたりダフったりしやすく(左)、体が過剰になると左に突っ込んだりカット軌道になりやすい(右)。いずれも軸がブレてスイングが乱れ、エネルギー効率も悪い
バランスをとるには力を出す“方向”を意識する
切り返しの瞬間は、上半身やクラブは右上方向、下半身は左下方向にエネルギーがかかり、両者が拮抗してバランスがとれていることが大事。ここで大きなエネルギーをバランスを崩さずに出すことが飛ばしの秘けつ!
Point! 2つのベクトルは円を描いて交差する
切り返しで右上・左下に拮抗していたエネルギーは、ダウンスイング以降はバランスをとり続けたままそれぞれ逆方向に円を描いて動いていく。インパクトの直前で交差するイメージだ
いかがでしたか? バランスのとれた切り返しは、力を出す方向を意識することが大切です。ぜひ、参考にしてレッスンを行ってみてください!
インナーマッスル 安岡幸紀
●やすおか・ゆきのり/1988年生まれ、高知県出身。高知高校ゴルフ部で活躍。卒業後、指導者の道に進み、日本プロゴルフ協会のティーチングプロA級を取得。現在はCHEERS GOLFの代表を務め、柳橋らとともにゴルフの原理原則の研究を行なっている。
インナーマッスル 山縣竜治
●やまがた・りゅうじ/1982年生まれ、山口県出身。國學院大学の野球部で選手とコーチ業を兼任。運動学やチーム指導などを幅広く学び、トレーニング部門も自身の体を実験体に専門的に経験。現在はゴルフの解剖に力を入れ「太子堂やまがた整骨院」で総院長を勤める。
インナーマッスル 柳橋章徳
●やぎはし・あきのり/1985年生まれ、茨城県出身。2023年6月より稲見萌寧とコーチ契約を結び、1年3カ月ぶりの復活優勝に貢献したツアープロコーチ。YouTube チャンネル「BREAKTHROUGH GOLF」でも上達に役立つ斬新な情報を発信中。
構成=鈴木康介
写真=田中宏幸
協力=GOLFOLIC中延店
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