岩井明愛&千怜、プレーオフで双子が魅せた劇的ショットとは?

ゴルフの歴史には、その転換期となる数々の「名勝負」がある。それを知らずして現代のゴルフを語ることはできない。そんな「語り継がれるべき名勝負」をアーカイブしていく。

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岩井明愛・千怜@2023年RKB×三井松島レディス

日本には兄弟姉妹のプロが多くいる。尾崎将司・健夫・直道の三兄弟や宮里聖、優作、藍の三兄妹は、その代表格だ。

そこに新たな歴史を加えたのが岩井姉妹である。

姉・明愛と妹・千怜は2002年7月4日生まれの双子だ。

父の職業は公務員。二人はごく普通の家庭で育った。

普通ではなかったのは運動能力だった。幼いころから群を抜く俊足で、陸上競技を始めた。やがて父親に連れていかれた練習場でゴルフとの縁が結ばれた。コースデビューは8歳だった。

それから10年後。二人は同じ年(21年)にプロテストに合格した。双子のプロ誕生は4組目。同時合格は3組目で、二人はあっという間に双子プロ、姉妹プロの記録を作っていった。

極めつけはテスト合格の2年後。二人はツアーの試合でプレーオフを戦ったのである。23年『RKB×三井松島レディス』だった。

兄弟姉妹のプロは少なくないが「兄弟姉妹のプレーオフ」は皆無である。唯一は男子ツアーの89年『ジーン・サラゼンジュンクラシック』。尾崎健夫、直道のプレーオフ(健夫が優勝)がある。女子ツアーでは初めてだった。

このプレーオフには前年王者の山下美夢有も参加。日本ツアー最強選手だけに、姉妹が勝てる保証はなかったが、2ホール目のバーディで千怜が勝った。

このとき二人は20歳。山下は1つ年上の21歳。若い3人は、これ以後も優勝を争うようになっていく。若い三人がもつれるように日本ツアーをリードするという、新しい時代を象徴する大会にもなった。

俗に「双子はシンクロ(同調)する」といわれる。岩井姉妹の軌跡にもシンクロ傾向がある。

例えばアマ時代の20年10月。『日本女子オープン』で明愛がローアマ(14位タイ)を獲ると、翌週の女子ツアー『スタンレーレディス』では千怜がローアマ(52位タイ)を獲った。

プロ入り後はテスト合格の2カ月後に、ステップアップツアー『カストロールレディース』で千怜が優勝。すると、次の『山陽新聞レディースカップ』では明愛が勝った。

だが翌22年のレギュラーツアーでは結果が分かれた。

8月2週の『NEC軽井沢72』。千怜はトップタイでスタートした最終日を3アンダーで回り、1打
差でツアー初優勝を飾った。

さらに翌週の『CAT Ladies』にも勝った。初Vからの2週連続優勝は史上3人目だった。

その直後は4戦連続の予選落ちも経験したが、この年のメルセデスランキング18位でシード権を獲得したのである。

この千怜の活躍で明愛もすぐ優勝を……というシンクロ現象は起きなかった。

8月までに10位以内には2度入ったが、その後は目立つ成績がなかった。

やっと光が差したのは10月半ばの『富士通レディース』。最終ラウンドの7アンダーで単独2位に入った。さらに実質的な最終戦となる『大王製紙エリエールレディスオープン』でも4位タイに入りランク40位でシード権を確保した。「姉妹でシード権が獲れて本当にうれしいけど、優勝できなかったことは悔しい。来年は一緒に『リコーカップ』(『JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ』。その年のツアー優勝者とランク上位者だけが出場)へ出たいなぁ」(明愛)。

その『リコーカップ』に出られた千怜は40人中25位タイ。これが象徴するように、終盤は10位以内なし。尻すぼみ感があった。

「後半、体が疲れて思うようなパフォーマンスができなかった。体を強くしたい。(最終戦は)不完全燃焼です。ショットもパットも全部ダメでした。来年は、もっといいプレーができるようにしたい」(千怜)

この流れは、翌23年のシーズンに持ち越された。

ついに達成した双子のツアー優勝

RKB×三井松島レディスのプレーオフで惜しくもやぶれた岩井明愛

明愛は開幕からの3試合で6位タイ、10位タイ、12位タイ。順調に滑り出した。

千怜は開幕戦で予選落ち。その後も振るわなかった。

転機は6戦目の『富士フイルム・スタジオアリス女子オープン』。

優勝争いに加わり、最終ラウンドの17番まで首位に並んでいたが、18番のボギーで1打差2位タイ。それでも自分を前に向かせた。

「次週も試合がある。この悔しさを次につなげようと今、気持ちを切り替えました」

この姿勢に明愛が反応した。

翌週の『KKT杯バンテリンレディスオープン』初日は5アンダー。単独2位(1打差)だった。

「ドライバーが久々によかった。(これまで)思いきりがなかったので、そこに気をつけて振っていこうと思っていました。千怜が頑張っていると、自分も頑張らないといけない-という気持ちになります」(明愛)

第2ラウンドは2アンダー。通算7アンダーで1打差単独2位は変わらなかった。

最終ラウンド。風が強くなって選手を苦しめた。明愛は6番パー4で初バーディがきたが直後の7、8番はボギー。前半終了時には3打差をつけられていた。

だがバックナインに入るとスコアを落とさなくなった。10番バーディの後はすべてパー。13番で単独首位に立ち、1打差で初のツアー優勝を手にした。双子がそろってツアー優勝するという初めての記録が生まれたのである。

「ホッとしているし、うれしい。絶対私も勝てると信じていた」

先に優勝した千怜に追いつけたのである。

すると今度は千怜のゴルフに火がついた。

翌週の『フジサンケイレディス』は2位タイ。再び1打差で優勝を逃がした。

「(この結果は)次のチャンスへ向けて頑張れ、という意味にとらえています。ここ数戦はいい流れが来ている。このまま流れに乗って行ければ(今季初優勝は)やってくるはずです」(千怜)

この言葉が現実になったのは3週間後。『RKB×三井松島レディス』だった。

3ラウンド制の第1ラウンド。7バーディ、ノーボギーで単独トップに立ったのは明愛だった。それを知ったラウンド中の千怜も奮起した。

「私もついていかなければと、活力になりました。私が伸ばせば(第2ラウンドを最終組で一緒に回る)チャンスがあるのかなと思いました」

その時点で明愛との差は2打。直後の17番でバーディを奪って2位タイに浮上し、最終組での双子ラウンドを実現させた。

第2ラウンドも明愛がリードした。1アンダーと伸び悩んだが、通算8アンダーで首位タイに踏みとどまった。

「雨と風が強くなったけど、アンダーパーをマークできた。千怜と同組は、特に意識はしませんでした」(明愛)

千怜は2オーバーで4打差7位タイに後退した。珍しくバーディがなかった。

「バーディパットが入らない。姉(明愛)と同組でしたけど、いつもと変わりません。でも、アキちゃんのプレーは良かったから参考になった。とりあえず、あすはバーディをひとつ獲って波に乗りたいです」(千怜)

すると、最終ラウンドはそのとおりのプレーを見せた。

この日は後ろから4組目。1番パー5で「バーディをひとつ」獲ると、そこから3連続バーディ。アウトは4アンダー。インも3アンダーで65。通算11アンダーの単独トップでホールアウトした。

追う立場になった最終組の明愛は1打差の18番でバーディを獲り、首位タイでホールアウト。最終組の一つ前でプレーした山下も18番のバーディで11アンダーとしていた。

明愛が直ドラで続く千怜も

前年女王・山下と新進の岩井姉妹。3人のプレーオフが始まった。

プレーオフは18番、496ヤード、パー5の繰り返し。

1ホール目は全員パー。

2ホール目の1打目は全員フェアウェイ。2打目を最初に打った山下は、254ヤードの2打目をレイアップした。

次の明愛は残り233ヤード。2オンを考えて「直ドラ」を選択した。打球は低めに飛び出し、グリーン手前に止まった。

3番目の千怜も距離は233ヤード。やはり直ドラにした。打球はきれいに上がり、グリーン手前の砲台のふもとで止まった。

3打目は全員バーディ圏内に運んだ。最初のパットは山下。6メートルが入りかけながら、フチでくるりと回って外れた。

明愛は2メートル足らずのバーディパット。イージーに見えたがフチを通り過ぎた。

千怜のパットは1メートル半。これをしっかり沈めた。女子ツアー初の姉妹プレーオフ。そこに最強女王の山下が加わった劇的な延長戦は、千怜が制したのである。シーズン初優勝。通算3勝目だった。

試合後の二人のコメントはシンクロしていた。

「プレーオフは楽しまなきゃと思っただけです。たくさんのギャラリーに囲まれて、夢だった明愛とのプレーオフを戦えて、本当に現実なのかと思いながら、状況を楽しんでいる自分がいました」(千怜)

「プレーオフは初めてだったので、こんなに楽しいのかと思いました。その中に千怜もいて、不思議な気持ちでした。(敗戦は)もちろん悔しい。8割悔しくて、千怜が優勝して2割うれしいです」(明愛)

劇的な優勝に花を添えたのが「直ドラ」だった。プレーオフ2ホール目の2打目。先にドライバーで打った姉がグリーン手前まで運んだのを見た千怜は、こう思ったという。

「最初はスプーンで打とうかと思っていた。でも明愛を見て、そうか、ドライバーもありだなと気づきました。ここまできたらファンの皆さんを楽しませたいと思いました」

なんでもトライする明愛。よく考えてプレーする千怜。二人のプレースタイルは違っていて、千怜は試合で「直ドラ」を使ったことはなかった。

「練習でもあまり打っていませんでした。でも悪くてもフェアウェイには止まってくれる。失敗する予感はありませんでした」

2打目地点は左足上がり。アッパーに打ちやすいので直ドラで一番怖いダフリも、トップ目の当たり損ないのリスクも少なかった。万が一、打球が上がらなくてもグリーン方向には飛ばせる。明愛のショットを見てその確信を得たことが「直ドラ」を決断させた。

互いのゴルフをわがことのように知っている、双子ならではの逸話といえる。

「双子って、片割れが頑張ると、私も頑張る!となるんです」(明愛)

笑顔を絶やさない明るい二人のプレーが、女子ツアーを活性化させている。

いかがでしたか? 岩井姉妹の熱い名勝負の紹介でした。今後もぜひお二人の活躍に注目してみましょう。

文=角田陽一
写真=ゲーリー小林

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