岩井千怜、“20歳”の初優勝劇!岩井ツインズの活躍が話題
ゴルフの歴史には、その転換期となる数々の「名勝負」がある。それを知らずして現代のゴルフを語ることはできない。そんな「語り継がれるべき名勝負」をアーカイブしていく。
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双子姉妹の活躍が話題に
2020年度の女子プロゴルフテストは、日程が大幅に遅れた。年末の予定だった最終テスト終了は、翌21年6月25日になっていた。
このときの合格者は20位タイまでの22人。注目された双子の岩井姉妹がその中にいた。姉の明愛は3位。妹の千怜は9位タイだった。
二人は02年7月、埼玉県生まれ。その存在は高校3年生だった20年の秋に広く知られた。10月1週の『日本女子オープン』で明愛がローアマ(14位タイ)を獲得。翌週の女子ツアー『スタンレーレディス』では千怜がローアマ(52位タイ)になった。その実力を、二人はプロテストでも発揮したのである。
テスト終了直後には「最終日最終組で、二人で優勝争いをしたい」(明愛)「双子で日本ゴルフ界を引っ張れるようにがんばりたい」(千怜)と夢を膨らませていた。
ゴルフ界に兄弟プロは少なくない。ジャンボ尾崎、健夫、直道の三兄弟。宮里聖、優作、藍の三兄妹。最近では香妻琴乃、陣一朗姉弟や堀奈津佳、琴音姉妹もいる。岩井姉妹は双子という形でそこに加わったことになる。
当初、実力的には明愛がリードしていた。『日本女子オープン』ローアマはアマチュアのビッグタイトルで、その資格で1次、2次のプロテスト予選が免除された。特別扱いだったのだ。対する千怜は1次からの受験になっていた。
だが2カ月後には千怜が先行した。ステップアップツアー『カストロールレディース』で優勝したのだ。すると明愛も同じツアーで勝った。次の試合の『山陽新聞レディースカップ』だった。そして二人は、22年のレギュラーツアーに臨んでいった。
22年のシーズン。QTランクがよくなかった(明愛70位。千怜90位)二人は、出られる試合が限られていた。その中で上位に入り、その後の出場権をつかむしかないという厳しいスタートになった。
最初に10位以内に入ったのは明愛だった。5月1週『パナソニックオープン』(自身4戦目)で7位タイを記録した。その1カ月後。6月1週の『リシャール・ミルヨネックスレディス』では、千怜が2位タイに入った。
第1ラウンドの千怜は1オーバー、首位と4打差の32位タイ。第2ラウンドでは5バーディ、ノーボギーの67。この日のベストスコアで2打差2位タイへ躍進した。
その結果、第3ラウンドは最終日最終組。首位の稲見萌寧(前シーズン賞金女王)と同組となった。そしてこの日は、一転して苦しい戦いになった。前日はノーボギー。最終日は3番でボギーが先行すると6番ではダボ。10番もボギーにした。ここまでバーディなしの4オーバー。優勝争いどころか、一方的にスコアを崩す事態に陥ったのだ。
だが、立ち直りは見事だった。直後の11番で初バーディを獲ると、そこから5連続バーディ。この日1アンダーで上がり、2打差2位タイで終えたのである。大波を乗り切って、プレー後には涙がこみあげた。ここから千怜の成績はレベルアップした。直後の2試合は低調だったが、その次の3試合は11位タイ、10位タイ、9位タイ。ベスト10付近を定位置にしていったのだ。
順調に成績アップ迎えた夏の軽井沢
そうして迎えたのが8月2週の『NEC軽井沢72ゴルフトーナメント』である。第1ラウンドは6バーディ、ノーボギーの6アンダー。1打差、2位タイの好スタートを切った。
第2ラウンドは5バーディ、1ボギー。前日に目標にしていた「できれば4アンダー以上」をクリアした。通算10アンダー。3歳年上の『黄金世代』吉本ひかると並んでトップに立ったのである。
最終ラウンドは2度目の最終日最終組。しかも初めてトップでスタートするだけに、緊張感は『リシャール・ミルヨネックス』以上になると思われた。
だが今回はバーディが先行した。3番パー3、4番パー4と連続バーディ。7番パー4はボギーにしたが、バックナインに入ると猛攻が始まった。10番3メートル、11番4メートル、13番2メートル。次々にバーディパットを沈めていったのだ。通算14アンダー。2打差の単独トップに立った。
その後は14〜17番までパーに終わったが、後続もバーディが獲れず2打差が縮まらない。最終ホールで3パットしながら、1打差でツアー初優勝を勝ち獲ったのである。
1カ月前に20歳になったばかりの岩井ツインズ。その初めての勝利を千怜が挙げたのである。若い選手が初優勝を手にする。そういう試合は「激闘の末の感激の初優勝」に見えるものだ。だがこのときは違っていた。淡々とプレーしたら結果的に勝っていた。そんなふうに見えたのである。
なぜか。
一つはよどみのないストロークを続けられたこと。ドライバーからパットまで、すべてをスムーズかつバランスよく振り切っていた。
優勝争いでは、強烈な緊張感に襲われる。それがさまざまなスイングの変化を生み出す。力が入りすぎたり、片手を離したり、バランスを崩したりするのだ。観る側には「プレッシャーと戦っているんだな」という思いを抱かせる。千怜にはそれがなかった。スイングからは、緊張は感じさせなかったのだ。
二つ目は笑顔。
優勝争いの緊張感は表情にも硬さや苦しさが出やすい。だが千怜はプレー中、笑顔を絶やさなかった。テレビ中継では『ずっと笑い続けていた』と感じたほどだった。
その結果、最終ラウンドのプレーが第2ラウンドのように見えた。テレビ中継の音声を切り、順位などの情報を見なければ、千怜のプレーは2日目のものに見えただろう。
3日間大会の第2ラウンドにもプレッシャーはあるが、最終日よりはずっと軽い。適度な緊張感はよいパフォーマンスにつながる傾向がある。首位を争う好調な選手なら、ショットもパットも気持ちよく打てる。笑顔も自然に出てくる。だが最終ラウンドのプレッシャーはケタ違い。それがストロークを変え、表情をこわばらせて、ラウンド目とは違うゴルフに見えてくる。プロらしいバーディ奪取が減り『重苦しい優勝争いになった』という記憶を残すのである。
それも悪くはない。重圧の中からは感動的なドラマも生まれるからだ。初Vはそうなりやすいものだが、千怜の勝ち方は違っていた。軽やかなプレーをやり抜いて鮮やかに勝ってみせたのである。
優勝の要因は攻めの姿勢
「試合のように練習し、練習のように試合をせよ」といわれる。試合の緊張をイメージして練習することで、練習のときのショットが試合で打てるようになる。自分の能力を大事なところで引き出す方法である。
同じことが千怜の初Vには当てはまる気がする。最終ラウンドを2ラウンド目のようにプレーできたことで、初Vを手に入れることができた。そのためのキーワードは「攻める」だった。
例えば『NEC軽井沢72』の1ラウンド後に、千怜はこういった。
「(好調の要因は)考えすぎないことです。迷うと振り切れなくなったり、不安ばかりが浮かんできます。考えすぎず、思い切りのいいプレーを心掛けている」
逆にいえば「迷わないことで振り切れるようになる」のである。
迷いは不安があることの証し。それを解消しようとすると「考えすぎ」になる。その状態を克服できるのが「攻める」決意である。自分の技術で「ピンを攻められる」と思えたときには、「その距離を、ピンに向かって打つことだけを考える」のが「攻める」。
「ピンには打ちたい。でもオーバーしたら3パットが怖い。オーバーはしないようにピンを狙おう」。安全を考えた攻め方とも思えるが、これは「攻める」ではない。ピンに打てる技術があるかどうか。「ある」と即答できるならオーバーは考える必要がない。オーバーを考えるのは考えすぎで、怖さからくる迷いである。
迷うとスイングは複雑になる。「ピンまで打つ」と「オーバーはしない」の2つを求めるからだ。目標が二つになると体の動きは鈍る。気持ちよく振り切ることが難しくなるのである。ピンへの距離を打つことに専念する。これなら目標は一つになる。シンプルに、練習のように振っていけるのだ。
それでもミスは起きる。しかし、それを覚悟したうえで「攻める」ほうが結果はよくなる。そういうプレーを岩井千怜はしてきた。前述の『リシャール・ミルヨネックス』最終日。10番まで4オーバーのあと、5バーディを取り返せた理由を、千怜はこういっている。
「前半から攻めた結果です。だから2ボギー、1ダボでも失敗とは思っていなかった」
また『NEC軽井沢72』第2ラウンド後にはこういっていた。
「(明日は)ピンを狙って攻めて、バーディーチャンスについたところは全部入れる気持ちでプレーしたい」
こういう決意を変えずにプレーをやりきったことが、初優勝につながったのだ。
そして、この翌週。『CAT Ladies 2022』でも千怜は優勝を手にした。
第2ラウンドで2打差の単独首位に立ち、最終ラウンドでは猛追してきた山下美夢有を1打差で交わして逃げ切ったのだ。初Vからの2週連続優勝は史上3人目の快挙だった。
翌週は、史上初となる初Vからの3連続優勝がかかった『ニトリレディス』。しかし予選落ちになった。それも2日間12オーバー、118人中112位だった。
それでも千怜はいった。
「(今日は)振りきれていないことに気がつきました。洋芝にうまくアジャストできていないのでしょう。次週は、振りきることを意識してプレーしたい。2日間はすごく楽しかった。このコース(小樽GC)は攻めがいがある。4日間プレーしたかった」
ミスって後悔せず。この後に期待が残る予選落ちといっていい。かわってこの試合では姉の明愛が最終日に3アンダーをマークして、13位タイに入っている。
勝つほどに結果を求められるのがプロの宿命。その重さを、観ている側に感じさせないような、明るい表情の軽やかなプレーは希少である。
ちなみに千怜の「怜」は「さとい」(賢い)の意味がある。賢さは勇気のみなもとともいわれる。さらなる飛躍を待ちたい。
いかがでしたか? 今後の岩井姉妹の活躍にぜひ注目してみてください!
文=角田陽一
写真=Getty Images
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