「どこのクラブ?」世界3位リディア・コーが選んだ“無名の日本製アイアン”とは…!?

世界ランキング3位(5月24日現在)のリディア・コーが、アメリカだけでなく、日本でも実績がほぼないアイアンを使って優勝したというニュースの真相に突撃!

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目標は「多くのメジャーな選手が使ってくれる」クラブ

リディア・コーが、米女子ツアー第2戦の「ゲインブリッジLPGA」(1月27~30日)で優勝。心機一転、「もう1度、世界一になりたい」という情熱から、「自分に合ったクラブのみを使いたい」とクラブ契約をフリーにし、早々に結果を出した。

そんなリディアが選んだアイアンはプロトコンセプト。アメリカではまったく無名のブランドのため現地や日本でも話題になった。

来季はクラブ契約の更新をしないと決めたリディアは、昨年8月ごろからあらゆるメーカーのクラブの試打を開始した。その際に米ツアーのベテランレップ、ラスティー・エステス氏にも連絡が入り、プロトコンセプトのアイアンを提供したそうだ。

そのエステス氏にアイアンを渡したのが、現在、プロトコンセプトの現地責任者を務める川﨑康史氏だった。

「試合がはじまるまで本当に使ってもらえるのか半信半疑でした」(プロトコンセプト現地責任者 川﨑康史)

川﨑氏は、日本のゴルフパートナーの執行役員で、長らくバイヤーとしても活動。現在はプロトコンセプトをはじめ、同社のオリジナル商品開発にも携わっている。

「最初にエステスさんから連絡があって『リディアが使いたいって言っているので、クラブを渡してもいいですか?』と連絡があったときは『誰? どのリディアさん?』と思いました(笑)。1回でも弊社のクラブを打ってくれるのなら出しましょう! ということで準備したのが昨年の夏でしたね」(川﨑)

提供はしたものの、まさか最終的に採用されるとまでは思っていなかったふたりだったが、開幕直前にリディアのスタッフから「最後の3つのアイアンセットに、プロトコンセプトが残りました」という連絡があり、かなり驚いたそうだ。

そして迎えた22年シーズンの初戦。リディアはプロトコンセプトのアイアンをバッグに入れて戦いはじめた。そして、第2戦で優勝。その記者会見で私は、直接リディアに「なぜプロトコンセプトという無名メーカーのクラブを使ったのか?」と問いかけた。するとリディアの答えはこうだった。

「100セットを超えるクラブを試打したんですが、プロトコンセプトは打感がよくて、ミスヒットしたときの曲がり幅も小さかった。スピン量も安定していたし、結果がよかったからです」

後日、川﨑氏にも話を聞くことができた。

「私が入社したのちに、オリジナル商品を作りはじめました。中古商品を販売する会社のため、メーカーさんからクラブを卸してもらうことが叶わなかったので、自分たちで作るしかなかったんです」

6番アイアンは「C05」、7~9番アイアンは「C07」を使用。どちらもポケットキャビティで「C07」のほうが、サイズが少し大きい

プロトコンセプトの開発がスタートしたのは17年。いくつかの失敗を経験しながら再挑戦を繰り返し、2年後の19年に第一歩を踏み出すことができた。転機になったのは、米国開催が決まった20年10月のZOZO選手権だ。

同年、日本で非公式大会として行われた「ゴルフパートナーエキシビショントーナメント」で優勝した関藤直熙選手が、ZOZO選手権への出場権を獲得。ゴルフパートナーのロゴを身につけることになった関藤選手とともに、川﨑氏も渡米することになった。

「そのとき、フォーティーン社にいたエステス氏と出会いました。当時は、アメリカ進出を具体的に構想してはいませんでしたが、エステス氏がフォーティーン社を退職予定と聞いて相談。翌年春の退職に合わせてプロトコンセプトのレップへの就任を依頼しましたが、最初は何度も断られました(笑)」(川﨑)

元々、アメリカ市場にも注目していた川﨑氏だったが、エステス氏との出会いがプロトコンセプトを一足跳びにアメリカで展開する契機となった。

「ツアー選手に対しては、クラブを誰が薦めるのか、誰がサポートしてくれるのかということがとても大事。そこで、私たちはエステスさんにやっていただけるなら、と思いました。もちろん日本ツアーでも展開したいのですが、ルートもノウハウもない。でも、『アメリカの選手が使っているなら』となると、憧れや信頼感が出てくるじゃないですか。メジャーな海外の選手が使ってくれれば、日本でも使ってくれる人が増えて売上も増えるでしょうが、売上額ではなく『多くのメジャーな選手が使ってくれる』のが夢と目標です」(川﨑)

中古販売店が作ったオリジナルクラブが世界ナンバー1のアメリカ市場で、今後どれほどの評価を得るのか、期待して見守りたい。

リディア・コー

●1997年生まれ、韓国出身、ニュージーランド国籍。12年に豪州ツアー「ニューサウス・ウェール女子オープン」を14歳9カ月と5日で制し、当時の世界最年少ツアー優勝記録を樹立。同年に「全米女子アマチュア」と米女子ツアーでも優勝し、天才少女と呼ばれた。翌13年も米女子ツアーで勝利し、特例でプロ入りを認められた(規定では18歳以上)。プロ転向した14年にも3勝をあげ、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。米女子ツアー17勝。

フォトグラファー=田辺安啓通称JJ
●たなべ・やすひろ/1972年生まれ、福井県出身。ニューヨーク在住。ウェストバージニア大学卒業後、ゴルフコース、テレビ局勤務を経験し、ゴルフを専門とするフォトグラファーに転身。ツアーのみならず、コースやゴルフ業界全般に関わる取材も行っている。

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